多々羅の龍と尾道と渡船フェリー -瀬戸内しまなみ海道の旅その3-
多々羅大橋には龍が棲んでる。橋の中ほどの愛媛と広島の県境を過ぎて、しばらく進むと、多々羅鳴き龍というスポットがある。そこは、橋のワイヤーを束ねる主塔の根本にあたる。そこでパンと両手を叩いた。すると、ヴァン、ヴァン、ヴァン・・・と音が響鳴して空へ昇っていった。これが鳴き龍である。 伯方島の塩、生口島の檸檬、因島の除虫菊、その他諸々、しまなみには名産やグルメが多くある。しまなみ海道の見どころは、多くのメディアで紹介され、しまなみ海道を特集した雑誌は数知れない。今や、サイクリスト達から、最も注目される観光地となっている。注目は国内だけとは限らない。行く先々で相当数の外国人サイクリストを見かけた。 瀬戸内海はその名の通り、日本列島の内海である。穏やかで温暖な気候。すべては海と太陽の恩恵の上にある。自転車で走れば、かいま見える島の生活や文化が示唆的である。どうしようもない都会の価値観に毒された頭には良薬だ。島と島を繋いだ道は、海と空を貫いて延びる。時速20キロで見る景色が命を洗濯してくれる。 向島。最後の島である。向島と本土を隔てているのが、尾道水道である。向島から尾道へ架かる橋もあるが、これは渡らない。どうするのか。観光案内などで、自転車乗りに勧められているのは、渡船フェリーである。船代は1人100円、自転車乗りは110円だ。これがなかなかご機嫌だった。渡れば、石段の都町、尾道である。 映画『転校生』(大林宣彦 監督)は、神社の石段を転げ落ちた中学生の男女の身体が入れ替るというストーリーで、その舞台が尾道だった。だいたい尾道という地名を知ったのは、この映画があったからである。一昨年頃、大ヒットした映画『君の名は。』息子たちと観たのだが、これも少年と少女が入れ替るというストーリーだった。 夕暮れ時、宿を取っていた福山駅前にたどり着いた。ビジネスホテルである。なんだかんだと、愛媛の東予港から130キロ弱を走った。クタクタだった。ハッキリいって頑張り過ぎである。風呂に入って、半ば朦朧としながらも考えるのは、今夜何を食おうかという事だった。 おそらく続く。